内田孝幸

2016年度に私立大学研究ブランディング事業に採択されたことを契機として、色の国際科学芸術研究センターが設立されました。本センターは、写真、印刷、光学をルーツとして、現在の工学部と芸術学部で共通して扱うことのできる「色」を取り上げたユニークな特徴を有する「色」の国際的な研究拠点として活動を続けています。
「色」は分かっているようで分からないことが多く、不思議な存在でもあります。これには、①色（光）刺激に限定し、その視細胞への刺激の強さと視覚による応答との間の第一段階がありますが、これだけでも、色による生体での情報信号は光源の色、物体の色、目の感度の３つの相乗効果によって決まります。次に、②この「視覚」の後段部分、脳内で信号処理として位置付けられる色対比現象や色同化現象、色順応効果など、空間的・時間的に隣接する複数以上の色同士の間で生じる色の見え方の例など様々な事例がある色の知覚効の過程を経て色を見て（感じて）います。このため、「色」は現在でも興味深い研究や応用分野として位置づけられます。
それだけ、「色」を見るということは自明のことのようであって、そのメカニズムについては知られていないことの方が多いといえます。このような色の謎を解き明かし、なおかつその研究成果を新しい表現につなげるためには、従来の専門性にこだわらない、学際的な活動がますます必要になっています。
そもそも、工学と芸術は個別の領域ではなく、写真、映画、CG、インタラクティブアートなど、互いの相乗効果の中で発展してきたものです。すなわち、その時代の最新技術に応じて発展してきたものと考えることができます。特に「色」という領域横断的、学際的なテーマにおいては、本学の特長である工学部・芸術学部教員の共同研究によって、新技術の開発や新たな表現が生まれます。
この観点に立って、当研究センターはすでに10年弱の歴史を積み、厚木キャンパスにおいてcol.labギャラリーを設立し活動・運営をして参りました。本ギャラリーで、子供から大人まで「色」の科学的芸術的な面白さや奥深さを体験していただき、来場者の反応を新たな研究につなげるサイクルの確立を目指しています。
このような画期的な研究・制作の成果を生み出す環境を提供することをセンター長の役割と位置づけ、今後も本学の特色を生かした「色」の研究制作を通して、東京工芸大学のブランドが確固たるものになるよう尽力していきます。

東京工芸大学は、色に関するテクノロジーからアートの領域までを学際的に幅広く教育・研究する「色の国際科学芸術研究拠点」を目指しており、その中核となる「色の国際科学芸術研究センター」は、様々な光源の下で、色と人間の心理や感情、忠実かつ高精度な色再現を可能とする技術、文化材・芸術作品のデジタルアーカイブ保存技術等を研究する実験室を有するとともに、色の科学の基礎や最先端の研究成果を、写真、映像、拡張現実、プロジェクションマッピング、コンピュータグラフックス、マンガ、ゲーム等のメディアアートの手段を用いてわかりやすく楽しく伝える新たな体験学習型教育システムを構築し、これを子供や中高校生等に一般公開するギャラリー（カラボギャラリー）運営しています。このような教育・研究センターは国内の他大学には存在せず、工学部と芸術学部を有するという本学の特色を活かした国内唯一のセンターです。