ベトナム・ホーチミン市における 高層ビル群、旧市街、郊外ニュータウンの色と建築の関係

芸術学部 写真学科 教授 小林 紀晴

いまなお発展著しい(2023年第4四半期GDP6.72%)ベトナム・ホーチミン市の高層ビル群(再開発地)、旧市街、郊外ニュータウンの三箇所を撮影地とし、ライトアップされた建築、広告ディスプレイなどに注目した。なかでも近年、東南アジアで使用頻度が急激に高まっているフルカラーLEDの照明に興味をもった。人の「欲望」は最初に都市の表層(建築物、広告など)に現れると仮定し、照明器具が上記三カ所でどう用いられているかを視野にいれながら、写真作品を制作。なお当初の予定にはなかった歓楽街を現地調査の過程で知り、加えた。

令和5年度研究成果ダウンロード

長くアジアの都市を撮影してきたが、近年その景観に共通した大きな変化があることに気がついた。フルカラーLEDなど新たな照明器具の多様化だ。建築家・磯崎新は「いま、中国でコンペをやると、都市の完成状態を夜景で描くように言われます。昼間は街の汚さが目立ちます、夜にライトアップすると幻想的な街に見える」[1]と発言。またフランスの人類学者マルク・オジェは著書『非―場所』[2]のなかで現在の都市空間を「スーパーモダニティ」と名付けた。それらを踏まえ、ホーチミン市を被写体(研究対象)に選んだ。

政府機関、商業、観光施設などが集中する一区、ビンタン地区を中心に撮影。特徴的なのは2000年以降に新たに建設されたホテルなどの装飾だ。フルカラーLEDを多用し、動画的に激しく変化する。さらにレロイ通り広場には夜になると20代を中心に多くの人が集うが、通り沿いには巨大なフルカラーLEDの電光看板が点在する。映し出される広告はコカコーラ、H&Mなど海外資本の商品、ベトナム国内の有名女優などを起用した化粧品などが主。10、20代をターゲットとしたものであることは明らか。ベトナムの平均年齢は31歳(なかでも20歳後半の割合が非常に高いのが特徴)と若い。

市街地西側のブイヴィエン通りは、コロナ禍以前は外国人を対象とした安宿・飲食街だったが、外国人が去った後、ベトナム人好みのクラブミュージックを流し始める。水着姿の女性が立つ。レーザー光を多用した照明を放ち、通りそのものが巨大なクラブと化している。コロナ明けに外国人観光客がそれに注目し、再び外国人が集まる現象が起きている。

ブイヴィエン通り

サイゴン川東岸から高層ビル群(再開地)を望む

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