ジェネラティブアートと大規模言語モデルを用いた生成AI

芸術学部 インタラクティブメディア学科 教授 久原 泰雄

1990年代頃にコンピュータが一般に普及すると共に芸術表現をプログラミングによって実装することが行われるようになった。人工生命の概念は1980年代には存在していたが、コンピュータによるジェネラティブアートはMax/MSP, Pure Data, Processingなどのアーティスト向けの開発環境と共に2000年代に入って盛んになった。2010年代にはニューラルネットワークの性能が格段に向上し、ディープラーニングを芸術分野に応用する例が登場した。2020年代には自然言語を扱うニューラルネットワークのモデルであるTransformerの性能が注目され、言葉を媒体として文章や画像などのコンテンツが高品質で生成できるようになり、新たな局面を迎えている。
本稿では筆者が2023年度に制作し、展示したジェネラティブアートの作品2点を解説し、その後、生成AIの基盤となっている大規模言語モデルの可能性について論じる。ジェネラティブアートと生成AIの両者には、いずれもジェネラティブ、すなわち、生成という語が含まれているが、各々の持つ意味合いは、かなり異なり、その違いについても考察する。

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フラクタル幾何学の特徴は自己相似性であり、自然界に頻繁に出現する。自己相似性は基本図形を再帰的呼出して描画することで実現できる。次に紹介する作品は再帰的に矩形分割を繰り返すことによって得られる自己相似性をもつ抽象絵画である。

AI Composition 100th Anniversary Portrait
本作品の原型であるAI Composition Paintedは、キャンバスを単なる一つの矩形と捉え、AIによって再帰的に二分割を繰り返し、フラクタルな自己相似の矩形の集合として再構成した抽象絵画の作品である。絵の具の三原色として知られる赤青黄のみで彩色することで普遍性を持つ抽象的な表現をジェネラティブに描画した。
一方、本作品は上述の再帰的な矩形分割のアルゴリズムを踏襲しつつ、矩形の配色を青緑黄の3色に限定してB0サイズ(幅1030mm 高さ1456mm)の3つのキャンバスに描画した。左のキャンバスはテクノロジーを表す青、右のキャンバスはアートを表す黄、中央のキャンバスはテクノロジーとアートの融合を表す緑で彩色している。各色は、各キャンバスの右端中央、左端中央、中央を中心とする円に基づいて構成される。配色のアルゴリズムによって、各円の中心から離れるにしたがって着色される確率と濃度が小さくなるように設定している。プログラムを実行するたびに異なるパターンが無数に生成される。結果として、大学のシンボルマークが浮かび上がり、創立100年を記念した芸術学部フェスタ2023「百花繚乱」に出展する作品とした。

人類が持つデジタルコンテンツを学習し巨大な意味空間を構築した生成AIは言語を媒体として、単純で具体的な単語から複雑で抽象的な概念まで蓄えており、人間はプロンプトを通してそれらを入手することができる。芸術は自己に内在する感情や思考を表現することに他ならないが、人間の学習能力は時間的、身体的な制約のため限界がある。一方、生成AIはコンピュータ資源を存分に活用して人間には成しえない膨大なコンテンツを学習するため、計り知れない芸術表現の潜在力を持つと思われる。今後の発展とその活用方法に目が離せない

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