私立大学研究ブランディング事業 成果報告

事業概要

テクノロジーとアートの融合を目指した小西写真専門学校をルーツとし、現在では工学部と芸術学部を擁する本学ならではのブランド(独自色)を大きく打ち出す全学的研究テーマとして、「色」を取り上げ、国内の大学では唯一の「色の国際科学芸術研究拠点」を形成する。色はテクノロジーからアートまでを包含する学際的研究分野であり、これを推進することは、「真の工・芸融合」を目指す学長の大学運営の方向性と合致している。


1. 事業目的

本学の原点は、1923年(大正12年)に創設された「小西写真専門学校」である。当時の最先端表現技術であった写真に関する技術者・研究者を養成するために創設され、写真技術(テクノロジー)と写真表現(アート)との融合を目指した先駆的な学校であった。現在では工学部と芸術学部の2学部を擁する、極めてユニークな学部構成の総合大学へと発展し、工・芸融合を大学の特色として標榜している。本学のロゴデザインの水色の円は工学部、黄色の円は芸術学部、それらが交わる緑の部分は工学部と芸術学部の融合を表している。しかしながら、創設当時と比べると、研究・教育の両面において工学部と芸術学部の融合・連携は必ずしも活発ではなく、本学が持つ独自性、潜在能力を十分活かしきれていないということが、本学の大きな課題のひとつである。


 そこで、本学のルーツである写真、印刷、光学といった学問分野に根差し、今日の工学部と芸術学部の両学部に共通する全学的な研究テーマとして、「色」を取り上げ、国内の大学では唯一となる「色の国際科学芸術研究拠点」を形成し、ロチェスター工科大学(米)、中国文化大学(台湾)、タイ王立チュラロンコン大学、東フィンランド大学等、工・芸にわたる色の研究機関を有する海外の大学との連携もはかりながら、「色といえば東京工芸大学」と言われるようなブランドを築くとともに、学長方針である「真の工・芸融合」を目指す。
 外部環境、社会情勢に目を向けると、大手電機メーカーをはじめとする輸出産業の不振に伴う経済成長の低迷、超高齢化社会、日本の将来を支える教育の3つが、今、我が国が抱える最も大きな課題であるといえよう。各国の嗜好に合わせた製品の色・デザイン、色が重要な要素となるメディア輸出産業(いわゆるクールジャパン)、医療・介護および教育への色の応用等、色の研究は、我が国が抱える問題に対して大きな貢献を果たすことができると確信する。


 一方、明るい話題としては、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会が挙げられる。本事業は、同大会での映像、写真、印刷等の色彩表現技術の革新に寄与するとともに、同大会を契機としたイベントにも、色をテーマとしたメディアアート作品によって参画し、世界に向けて本学のブランドを発信する。

2.成果報告

  • 事業推進・支援体制の整備
    前頁に示した大学全体が目指すビジョンの実現に向け、全学的な研究の推進と研究成果の 戦略的な発信を担う事業推進・支援体制を整備するために、「全学研究支援委員会」、「色の 国際科学芸術研究センター」、「同・管理運営委員会」、「同・事業推進実行部会」、「同・自己 点検・評価部会」を新たに発足させた。

  • 全学的な研究の推進
    毎年度「色」に関する研究テーマの公募を全学的に行い、「全学研究支援委員会」での審査 により、重点研究テーマを選定し予算配分額を決定した。事業期間中に採択され実施された研 究テーマは合計34件である。「管理運営委員会」を四半期に1回開催し、各研究テーマの進 捗状況及び研究費使用状況をチェックするとともに、年度末には「自己点検・評価部会」で研 究成果の評価を行い評価結果を次年度の研究費配分にも反映させている。全研究テーマの 紹介文及び研究成果を「色の国際科学芸術研究センター」特設ウェブサイトに掲載している。
    色の国際科学芸術研究センター 研究成果ページ

  • 社会に向けた情報発信
    【カラボギャラリー企画展と情報発信】
    平成29年7月22日に、国内初となる「色」の常設ギャラリー(愛称:カラボギャラリー;col.lab) を、本学厚木キャンパス「色の国際科学芸術センター」内に開設した。同年8月4日にはカラボ ギャラリーの竣工式典と除幕式を行った。col.labのロゴデザインや建物のサイン計画は、東京 2020オリンピック・パラリンピックスポーツピクトグラムのデザインで著名な廣村正彰氏(当時、本 学芸術学部教授)が行った。カラボギャラリーでは、半年に1回、新しい企画展を一般公開し、 色のサイエンスや本学の研究成果を、メディア芸術の手段で子供から大人にまで、わかりやすく 楽しく伝えている。この取り組みは、工学部と芸術学部を持つ本学ならではの、そして本学にしか できないブランディングの取り組みである。
    新しい企画展を開催する際には、ポスターやチラシを、小中学校・高校、地元市役所・商工会 議所、関連学会、美術館等に送付するとともに、マスコミ各社にプレスリリースを配信した。また 著名人を招いたオープニングトークや企画展に連動した特別講義や体験ワークショップも開催し た。さらにFacebook, Twitter, Instagramでも頻繁に記事を投稿し、ネット広告も行うなど社会に 向けた情報発信に努めた。これまで以下の5回の企画展を開催してきたが、各企画展のパンフ レット、チラシ、YouTube動画は特設ウェブサイト内に掲載している。
      
  • 国際シンポジウム等の開催と情報発信
    毎年度末には、本事業の研究成果発表を兼ねたシンポジウムを開催している。 平成30年度末には本学中野キャンパスで、国際シンポジウム”The 1st International Symposium for Color Science and Art 2019”を開催した。主催は、東京工芸大学「色の国際科 学芸術研究センター」で関連5学会の後援を得て実施した。本学学長と理事が訪問し連携を 深めてきた東フィンランド大学、中国文化大学、タイ・チュラロンコン大学の教授3名を招待してプログラムを構成した。


    令和元年度末にもロチェスター工科大学教授や元米国画像学会長を招いて”色の科学・芸 術に関する国際シンポジウムとメディア芸術作品展覧会(The 2nd International Symposium for Color Science andArt 2020)”を開催すべく、全ての研究成果論文を掲載したProceedingsを発行し、col.labで展示した作品の中から選りすぐりの体験型メディアアート作品展覧会を準備してい た。
    さらに東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の「東京2020参画プログラム」の「東京 2020文化オリンピアード」に、この「色の科学・芸術に関する国際シンポジウムとメディア芸術作 品展覧会」を申請し認証を得ることができた。チラシやポスターには「東京2020参画プログラ ム」のロゴマークも付け、各所に発送するなど万全の体制で臨んでいたが、コロナウィルス感染 拡大の影響でやむなく中止(当分の間延期)とした。ただし、同Proceedingsに掲載した全論文 が、日本写真学会誌83巻2号(2020年5月発行)の特集に転載されることとなった。
    平成29年12月8日~10日には、本学中野キャンパスにおいて、”The 2nd International Conference on Culture Technology” が開催され、本学の事業を紹介する Special Session “Color Science and Art”も設けられた。

  • 学外でのイベントと情報発信
    令和元年8月16日~18日に、フィンランドのエミール・セーデル・クロイツ美術館で、これまで のcol.labでの活動の一部を展示・紹介するとともに「ミニシンポジウム」を開催した。
    平成30年度と令和元年度には、「出張カラボギャラリー」と称して、地元厚木市地下道での CHiKaフェスやパシフィコ横浜でのロボフェス2018にカラボギャラリーのインタラクティブ作品を8点選 定して展示した。来場者数は、CHiKaフェス約1300人、ロボフェス2018約4600人であった。
    平成30年7月26日~30日には、国際総合印刷テクノロジー&ソリューション展 「International Graphic Arts Show 2018“」(於 東京ビッグサイト)に、本学研究ブランディ ング事業を紹介するブースを設けて展示を行った。
    平成30年9月17日には、朝日新聞が主催する大型のシンポジウム企画「朝日教育会議」に 参画し、研究ブランディング事業に関連させ、「人をつなげる・色で伝える~工学と芸術の可能性~」と題してシンポジウムを開催した。来場者数は630名で会場の有楽町朝日ホールは満席となった。

  • 関連学会との連携と学会賞の受賞
    平成29年8月24日に、日本画像学会・日本視覚学会のコラボレーション企画として,本学中野キャンパスにおいて画像工学のための視覚科学セミナー「心理物理定量化の基礎」が開催さ れた。
    令和元年6月1日には、日本色彩学会第50回全国大会が本学中野キャンパスで開催され、 学長が本学の研究ブランディング事業の活動を紹介する基調講演を行った。令和2年2月7日には、日本印刷学会 第16回紙メディアシンポジウム「メディアとしての紙の 科学と芸術」で、本学教員が「紙メディアにおける色彩の科学と芸術」と題した講演を行った。
    平成30年度には、本事業による研究成果論文が「2018年度日本写真学会論文賞」を受賞し た。この賞は、2018年内に日本写真学会出版の論文誌に掲載された論文の中で最も優れたも のに授与される。

  • 私立大学研究ブランディング事業の経費の活用
    補助金の1/2弱を選定した研究テーマの研究費として配分し、約1/4を年間2回のカラボギャ ラリー企画展の作品制作・展示・広報に活用し、残りの約1/4をシンポジウムの経費・広報、海 外の大学との連携旅費、特設ウェブサイトのサーバー使用料、英語・中国語サイト作成、カラボ ギャラリー及び事務アルバイト人件費等に活用した。

  • 総括
    本事業に対して真剣かつ精力的に取り組み、補助金の適正な執行にも努めた。写真をルーツ とし工学部と芸術学部を有する本学の特色と強みを生かした研究を推進し、その成果の情報発 信を本学ならではの手段で極めて積極的に行ってきた。学長が目指した「真の工・芸融合」とい うビジョンも、その実現に向けて大きく進展した。本事業開始前と比べて、工学部・芸術学部とも に入試志願者数は2倍以上に増加したので、本事業は本学のブランド力向上に大きく貢献した と考えている。

3. 今後の事業成果の 活用・展開

学校法人東京工芸大学第2次中期計画(2018年度~2022年度)では、「学生第一主義 (学生ファースト)」の理念を基礎として、「東京工芸大学のブランド力向上」を目標とする、と掲 げられており、この目標の背景にも「私立大学研究ブランディング事業」があったと推察される。 その中で研究分野(大学院等の強化)の施策として、「実績のある「風工学研究センター」及び 新設の「色の国際科学芸術研究センター」については、本学の重要研究拠点と位置づけ、その機能を更に強化していく。」と述べられている。
「私立大学研究ブランディング事業」の補助金助 成は終了したが、今後も大学からの予算措置によって「色の国際科学芸術研究センター」の活 動を継続していく。令和2年度にも17件の研究テーマの採択発表を5月に行ったところである。
さらに、コロナウィルス感染拡大のため中止(当分の間延期)とした”色の科学・芸術に関する国 際シンポジウムとメディア芸術作品展覧会(The 2nd International Symposium for Color Science andArt 2020)”や新たなカラボギャラリー企画展もコロナウィルス収束後に開催すべく 準備を行っているところである。今後も研究をより深化させ、情報発信を積極的に行うことで、 大学の研究基盤を活性化し、大学の経営基盤の強化につなげていきたい。

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